ゆうらす第17号
 


 
白夜のラトビア ファーム・ステイ体験旅行
郡司 良(神奈川県)
 モスクワの所用を終えて、家人と二人、バルト三国を二十日間ほど個人旅行してきました。六月の半ば、ラトビアはもう白夜に近く、夜は4時間で明け、さわやかな、日本の秋のようなシーズンでした。
 わたしたちが選んだのは、リガから西北にほぼ百キロ、一日二本の長距離バスで二時間半、リガ湾沿いのベルツシエムという小さな村の農家でした。燻製の魚と手作りパンがおいしくて、休息・レクリエーションに最適、という宣伝文句にひかれたのです。このファーム・ステイのシステムはホーム・ステイとファーム・ライフとをくっつけたようなレクリエーションのシステムで、カントリー・ライフ専門の旅行社もあるくらいです。
 滞在した家は南に深い松林、北は淡いコバルト色のバルト海に挟まれ、それは静かな、世界が変わったような環境でした。大きな木にかこまれた広くて花一杯の庭を持つ、農家というよりは別荘風のたたずまいで、この家の主人はリガでの仕事を定年退職した老夫婦でした。ここで三日間を過ごしたのですが、部屋は納屋を改造した二間続きのこじんまりした小屋で、小さな電機暖房機付きでした。お風呂とトイレは母屋まで行かねばならぬのが少々不便ではありましたが。
 一日は海へ、もう一日は森へとトレッキングしたのですが、裏庭を十メートルほど下るともう砂浜。遠くに白鳥、カモメなどが泳いでいて、ただひたすら静かで、とりわけ夜明けの美しさは格別。三時間あまり海岸を歩いたのですが、ついに人っ子一人にも会わなかったのには驚きでした。わずかに海沿いの放牧地に二頭の牛を見ただけでした。森はというと、これもまたカラマツとアカマツが入り混じった行けども行けどもはてしない松林。ときに野の花、ゼンマイ、トンボなど、日本と同じ生き物に出くわします。
 朝食付き二人で一日四十ドルという格安暮らしでしたが、結局夕食も作っていただき、母屋のご夫婦と意気投合してしまって、滞在中はほとんど一緒に食事をすることになりました。女主人のじゃがいも料理とオムレツがめっぽうおいしくて、それに名物の魚の燻製がいい。半生の燻製でぺロッと皮をむいて食べるのですが、これが地元の薬草種のバルザムによく合います。最後に出てきたのが四十五度の地酒で、これを小さなグラスにニ杯半飲む。三杯飲んだらひっくりかえるという酒です。美術談議もできたし、バルトとロシアのデリケートな関係もうかがえたりして、その上アットホームなお別れパーティーまでやっていただき、ご機嫌のファーム・ステイ初体験でした。

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